十
夢を見た。
飛び散る血。
叫ぶ母。
さようならと呟く父。
あぁ、幸せが終わると、そう思った瞬間だった。
あの頃、今から7年前、僕が9歳のときの話だ。
たまたま、そうたまたま、毎日忙しい父が休日だったから。
「今日は家族サービスだ。」
と、父が言ったから。
僕と父と母で、公園に出かけたんだ。
父が公園に遊びに連れて行ってくれるのは初めてだったから…。
僕はただ、嬉しかった。
あんなことになるなんて、思わなかったんだ。
道路にてんてんと転がっていったボールを僕が追いかけて行って。
たまたま通りかかった乗用車が、僕を轢きかけて。
父が僕を突き飛ばして。
そのまま父が乗用車の餌食になった…だけ。
それだけ、だったんだ。
まるで、漫画のような展開。
母が、何かを叫んでいる。
乗用車に乗っていた人が近くの公衆電話へ走っていく。
僕はただ、突き飛ばされた痛さと、飛び散った血の多さに、愕然となるだけだった。
父が、残り少ない力を振り絞って、僕に手招きした。
僕は、刃物を突きつけられた気持ちになって、そのまま父に近づいた。